はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

ヒナ田舎へ行く ブログトップ
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ヒナ田舎へ行く 270 [ヒナ田舎へ行く]

ルークは部屋の隅に置かれた小さな書き物机につき、手帳と使い慣れたペンを並べて置いた。ポケットに忍ばせた清潔なハンカチを取り出し、額に押し当て、いつの間にか滲んでいた汗を拭った。

ここで何週間も過ごすのかと思うと、恐ろしさに身が竦む。

スペンサーの何もかも見透かすようなサファイア色の瞳。冷酷そうに歪めた唇。金糸のような美しい髪。

ルークは自分の黒だか茶色だか、どっちつかずの髪に触れ、カールした毛先を指先で弄んだ。

身の回りの世話をしてくれる従者を伴わなかったため、明日の朝にはてんで始末に負えない状況になっているだろう。スペンサーと並んだら、さぞ滑稽に違いない。

他の兄弟はどうなのだろう。

スペンサーの三つ下のブルーノ、ヒナのひとつ上のカイル。彼らもあんなふうに美男子なのだろうか?

だとしたら、美の欠片も男らしさもない僕は、ひどく惨めな思いをすることになる。

ルークはベッドサイドに置いた旅行鞄を開けて、中身をひとつひとつ取り出し、丁寧にベッドに並べた。

長期滞在のわりに、荷物は少なめだ。のちのち必要なものが生じれば、留守を任せているジャイルズが手配してくれることになっている。一緒に来てくれていたら、どれだけ心強かったことか。きっと馬車の車軸が折れることもなかったはず。

そうすれば、あたふたしなくて済んだし、スペンサーを見てちっぽけな自分を恥ずかしいと思うこともなかった。

けど、自分がいくらちっぽけでも、伯爵の代理としてここにいる限り、くだらない感傷に浸ってはいられない。

ルークは監視対象のヒナの事を考え、思わず溜息を漏らした。

あの子を監視するのは難しそう!

つづく


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ヒナ田舎へ行く 271 [ヒナ田舎へ行く]

代理人の到着を受け、晩餐のメニューの変更を余儀なくされたブルーノは、昼の間に仕込んでおいたチキンの煮込みを脇に避け、適当に取り出した野菜でスープを作っていた。

姿を見せることの出来ないダンは、部屋に引きこもっているらしく手伝いに降りてくる気配がない。仕方がないと頭では理解しているのに、故意に避けられているのではないかと勘繰ってしまう。

あんなふうに責め立てるべきではなかった。

ダンが嘘を吐かなければならない理由は、問い詰めなくても分かっていたはずなのに。

後悔しても遅いが、ひとまず、ことの成り行きを見守る他ない。代理人の存在がことをややこしくしているのだが、ひとまずの査察を乗り越えれば弁明の余地はあるだろう。

だからこそ、肉も食べられないような質素な食事の用意をしているのだ。ヒナに贅沢を許すなという伯爵の指示通りの。

まったく滑稽なことだ。それこそ、理解できない。

ライ麦パンとマッシュポテトを用意したところで、カイルが手伝いにやって来た。

「今夜は手伝う程のことはないぞ」ダンなら歓迎するが、カイルは必要ない。

「うん、まぁ、そうだろうけどさ、スペンサーが行けって言うから」

「ダンは部屋へ戻っているのか?」

「そうみたい。ちょっと前にはスペンサーと一緒にいたけど」

「なんだと!あのクソ△☆×……」ブルーノは小声で悪態を吐いた。ちょっと目を離すとこれだ。何かにつけダンを呼びつけ誘惑しようとする。

「え、なに?」カイルは耳慣れない悪態をうまく聞き取れなかったようで、首を傾げて訊き返した。

「いや、なんでもない」ブルーノはカイルの問い掛けを退けた。

「汚い言葉を使うものではない」

不意に低い声が戸口から聞こえた。目を向けると、咎めるように目を細めたヒューバートがそこに立っていた。

「お父さん、どうしたの?代理人さんは?」カイルはパタパタと子犬のように父親に駆け寄った。まだまだ父親が恋しい年頃だ。

「スペンサーが部屋に案内したところだ。バターフィールド氏は、しばらく滞在することになった」ヒューバートはブルーノに向けて言った。食事が一人分追加になるからだ。

「バターなんだって?」ブルーノは晩餐で使う皿を作業台に叩きつけるようにして置いた。

「クロフツさんって言うんじゃなかったんだっけ?」カイルは首をひねった。

クロフツは五十がらみの横柄な男で、前回来たときは、田舎の空気は合わないとかなんとか文句を言って、早々にここを去った。滞在するなど寝耳に水。ロス兄弟がシティで暮らしたいと言うのと同じくらいあり得ない話だ。

「クロフツ氏は急病で来られないそうだ」ヒューバートは無感情に報告だけすると、くるりと踵を返した。用件は終わりらしい。

「で、代わりに送られてきたのがバターなんとかっていうやつか」ブルーノはチッと舌打ちをした。

「失礼な口をきくものではない」そう言って、ヒューバートはキッチンから姿を消した。

カイルは思案顔でヒューバートを見送ると、悩ましげな呻り声をあげた。「うぅん、もうっ!いったいどうなっちゃってるの?僕たち、バターフィールドさんと一緒に食事するの?パンとスープだけの」迷惑千万といった口調だ。

「マッシュポテトもある」残念ながら、バターフィールドの分まではないが。

「僕、ウォーターさんのハムが食べたかったのに。早く食べないとダメになっちゃうでしょう?」カイルは食品庫にちらりと目をやり、納得できないというように盛大に溜息を吐いた。

「今夜は我慢しろ。ひとまず様子を見なきゃならんだろう」ブルーノはぞんざいに言い、追加の皿をカップボードから取り出した。

今夜、食堂で顔を合わせるのは誰と誰なのだろう。

ダンは?ヒナは?クロフト卿は?

代理人の目にはどう映るのだろう。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 272 [ヒナ田舎へ行く]

「これだけ?」

隣に座るバターフィールドがつぶやいた。

ヒナは食卓を眺め回した。からっぽの席。テーブルには二人分の食事。マッシュポテトの上に無造作に置かれたライ麦パンと小さなボウルに入った野菜スープが今夜メニュー。デザートはなし。

「うん」悲しげに言う。

「育ち盛りなのに、これだけで足りる?パンはもう一枚あった方がいいんじゃない?僕のをあげようか?」

優しい、フィフドさん。足りないのはパンじゃないのに。

ヒナは賑やかだった昼食を思い出し、しゅんとなった。「いらない。フィフドさんのなくなっちゃうから」

「フィールドだよ。僕は小食だから心配いらないよ」そう言ってにっこり笑うと、口の横がへこんだ。

ヒナは小さなくぼみを指先でつついてみたくなった。けれども、おとなしくしているようにダンにもスペンサーにも口酸っぱく言われたので我慢した。

「ヒナも小食だから大丈夫」おやつをいっぱい食べておいてよかった。

「そう?じゃあ食べようか」

「いただきます!」

「え、なに?なんて言ったの?」バターフィールドは眼鏡の奥の瞳を丸くした。

「イタダキマス、だよ」ヒナは手の平をぴったりと合わせた姿をバターフィールドに見せた。

バターフィールドはヒナをまねて手を合わせた。「イタダキマス。これであってる?」

ヒナは頷いて、食事を始めた。

とはいえ、あまり好きなメニューではない。甘いパンはないし、野菜だらけのスープ。マッシュポテトは好きだけど、ふかふかのパンに挟んだ方が美味しい。

ヒナはパンを小さくちぎってスープに浮かべた。スプーンでつついて沈めると、隣に目を向けた。

「フィフドさんはヒナを監視しに来たの?」スペンサーがそう言っていたから間違いないけど、フィフドさんに本当のところを訊いておかなきゃ。それとも、こういう質問もいけなかったんだっけ?

「ん?監視というか、どう過ごしているのか見に来たんだ」

ふーん。

「本を読んだり、アダムス先生の宿題やったり。それからお屋敷の周りをぐるりして、秘密の部屋に入って、毎日忙しいから、すごーく大変」ヒナはダンと練習したとおりのことを、すらすら口にした。嘘は吐いていないからね。

「秘密の部屋かぁ。楽しそうだね」

楽しいのとは違ったな、とヒナは思った。

おじいちゃんがヒナに何を見せて、何を知っていて欲しいのか、どうしてそうするのかよくわからないからだ。

それにフィフドさんが良い人なのか、悪い人なのかも、まだまだぜんぜんわからない。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 273 [ヒナ田舎へ行く]

だからって、どうしてこうなる?

スペンサーは狭苦しい談話室にぎゅうぎゅう詰めの面々を不快に見やった。

弟二人にダンにクロフト卿、エヴァンとかいう陰気な従者も顔を揃えている。

それぞれ自由に好きな場所で食事をすればいいものを。なぜわざわざ集う?

「ヒナがかわいそうだよ。ひとりぼっちだなんて」カイルはさっきからずっとヒナの心配ばかりしている。グラスを倒したらどうするんだとか、デザートもなしなんて夜眠れないよとか。

「ひとりではない。バターフィールドがいる」スペンサーはつっけんどんに言い、隣に座るダンに視線を向けた。

ダンはそわそわと落ち着かない様子だ。時折、なだめるような言葉をブルーノが耳元で囁いているが、心配でたまらないようだ。単に監視役と食事しているだけで、取って食われるわけでもないのに大袈裟な。確かに、バターフィールドは読めない男ではあるが。

「それに親父が陰から見守っている」ブルーノの言葉はほとんどダンに向けられたものだ。ダンの心配事は自分の心配事でもあるかというように。

「でもでも……」

「カイル、ヒナのことに関してはなーんにも心配しなくていいんだよ」クロフト卿が朗らかに言う。

てっきり部屋で食事をとると思っていたクロフト卿は、カイルと従者のエヴァンに挟まれて、時折窮屈そうに顔をしかめながらも場に馴染んでいる。こういうところがヒナと似通っていると思うのは気のせいだろうか?

「クロフト卿はヒナのこと、どのくらい知っているんですか?」ヒナとクロフト卿の関係を知らないカイルが急に鼻息を荒くした。

カイルは愚かにもクロフト卿と張り合う気らしい。たかが出会って一週間のくせに、ヒナのおじであるクロフト卿に勝てると思っているのか?

でもまあ面白そうなので、成り行きを見守ることにした。

「ん、そうだね、ヒナの好きなものはいろいろ知っているよ」とクロフト卿。

「僕も知っています!チョコレートが好きだし、リボンが好きなんです」カイルはクロフト卿にフォークを突き刺しそうな勢いだ。

クロフト卿は年代物のワインを口に含み至福の吐息を漏らした。「甘いパンが大好きで、リボンは青いのが好きなんだ。僕の輝くエメラルド色の瞳も大好きなんだよ」余裕たっぷりの笑みは確かに魅力的だ。

カイルはショックを受けたようだ。クロフト卿がヒナの好きなものを知っているからというよりも、ヒナがクロフト卿の瞳が好きだという事実に泣きべそをかきそうになっている。

「ネコも好きなんです」やけくそ気味に言う。

「そうみたいだね。今日まで知らなかったよ。向こうにはネコなんていなかったからね」クロフト卿は負けを認めるように肩をすくめた。おそらくは、エヴァンが隣で大人げない主人に対して睨みを利かせていたからだ。

おかげでカイルの自尊心は少しだけ回復したようだ。

「ふとっちょとヒナはすごく仲良しなんです」

「カイルともすごく仲良しだよね」そう言って、クロフト卿はにっこりとした。

この笑顔に騙されてはいけないが、カイルはすっかり機嫌を直し、スペンサーは思わず見惚れ、まったく関心がなかったのはブルーノだけだった。

言わずもがな、ダンとエヴァンも同様に無関心だった。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 274 [ヒナ田舎へ行く]

調査官というのは、調査して報告するだけで、意見することは出来ないのだろうか?

ルークは手の平に置かれた一粒のチョコレートを感慨深げに見やった。食後の甘いものがないからと、ヒナがくれたものだ。ポケットから二粒取り出して、ひとつは自分の口にひとつはルークにと。

「フィフドさんどうぞ食べて」

ルークはヒナの勧めに従い、チョコレートを口に入れた。

わぁ!美味しい。

「本当にもらってもよかったんですか?こんなに美味しいもの」ルークは感動して、思わず眼鏡を外した。ちょっとした癖だ。

「最後の二つだったけど、いいよ」ヒナは何でもないというふうに気軽に言うと、自分の分を大事そうに前歯でかじった。

ヒナの心の広さにルークはまたしても感動した。まさかヒナが、ルークを共犯者に仕立て上げようとしているなどとは微塵も思わずに。

「今度からスペンサーにデザートもお願いしたらどうですか?」

あまり質素な食事だと、育ち盛りの身体に悪影響を及ぼす。ルーク自身、ある程度贅沢に慣れているせいで、今夜の食事には満足していない。とても美味しかったのは事実だけれど、魚か肉でもあればよかったのにと思わずにはいられなかった。

「でも……」ヒナはそんなの無理だよと、唇をすぼめた。

「では、僕から言ってみましょう」ルークは僕に任せてと、胸を軽くこぶしで叩いた。

ヒナの顔がぱっと輝く。「ありがと、フィフドさん」

ありったけの感謝を込めて言われると、もうフィフドでもいいかと思ってしまう。

「他に頼んで欲しいことはある?」

ヒナはううんと首を振った。

ルークはヒナの控えめなところが気に入った。

「そんなこと言わないでさ、僕にはある程度の裁量が認められているんだ。だから言ってごらん」実際そんなものがあるのかは分からないけど、まったく自由裁量のない代理人などあり得ないはず。

「さいりょう?」ヒナはルークの言葉を疑っているのか、はたまた裁量の意味が分からないのか。

「ええっと、僕がデザートをお願いしますと言ったら、スペンサーはデザートを用意しなきゃいけないって事。わかるかな?」

ヒナは目玉をくるんくるんまわし、ようやく納得したように頷いた。「明日からみんなでゴハン食べたい。お願いできる?」

ゴハンタベタイ?

「ああ、もちろんさ」意味が分からなかったけど、大見得を切った。

とにかく、そのままの言葉をスペンサーに伝えさえすれば、きっと向こうでいいようにしてくれるだろう。

ヒナの願いはこれで叶うはず。

さてさて、僕は報告書の作成に入ろうか。

仕事はきっちりしなきゃ。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 275 [ヒナ田舎へ行く]

ルークがいなくなると、ヒナは入り口近くの紐を思いっ切り引っ張った。

どこにどう繋がっているのかはヒナの知るところではないが、これを引っ張れば誰かがすぐに来ることになっている。

紐から手を離す前に、ヒューバートが現れた。

あまりの早さに、ヒナは目を丸くした。思わず廊下に顔を出して、まだ近くにフィフドさんがいたらどうしようと辺りの様子を伺った。

「ヒューどっかに隠れて見てた?」ヒナは照れくさそうにもじもじと身体を揺すって、ヒューバートの澄まし顔を見上げた。

「あまり食が進まなかったようですね」ヒューバートは軽く微笑んではぐらかした。

「ちゃんと食べたよ」ヒナはテーブルの上を指さして、からっぽのお皿を見てと主張した。

「存じております」

やっぱりどこかで見てたんだ!チョコレートを食べたのも見てた?ヒナはフィフドさんにひとつあげたんだよ。てっきり、『こんなものどこで手にいれたんですか?』って訊かれると思ったけど、なーんにも言わずに食べたから、なんでもかんでもダメってわけじゃないみたい。

フィフドさんには『さいりょう』があるからかな?

「明日からデザートもいいよってフィフドさんが……」ヒューバートが盗み聞きしていたかどうかを確かめるように、ヒナはぼそぼそと口にした。

「左様でございますか?では、そのように致しましょう。カナデ様はお部屋にお戻りください。ダンが待っていますよ」ヒューバートは羽根布団のような優しい笑みを浮かべ、ヒナを廊下へと送り出した。

結局はぐらかされたまま、ヒナは追い払われた形となった。

部屋に戻ると、ヒューバートの言った通りダンが待っていた。

窓辺で繕い物をするダンは、ヒナの姿を見てさっと立ち上がると、気が気でない様子で駆け寄って来た。

「ヒナどうでした?バターフィールドさんはやっぱり伯爵のスパイですか?」

「そうみたい」

「やっぱり!」

「でも、フィフドさんはいい人。ヒナのお願い聞いてくれるってゆった」

「お願を聞くふりをして、伯爵に告げ口するかもしれませんよ」

ハッ!

そういうことは考えもしなかった。

「そう思う?フィフドさんはいい人のふりしてるだけ?」そんなの嫌だ。だって、チョコレートのこと、告げ口されちゃう。本当は持ってちゃいけないのに。

「ヒューは何か言っていましたか?」ダンは難しい顔で、ヒナに訊ねた。

ヒナは首を横に振った。ヒューはいつだって秘密主義。

でもきっと、ヒューなら全部いいようにしてくれるはず。

ヒューはそういう人だもん。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 276 [ヒナ田舎へ行く]

ルークが廊下を行っていると、背後から声を掛けられた。

「やあ、ルーク・バターフィールド。ごきげんよう」

あまりに気さくな声掛けに、ルークは驚きとともに振り返った。

だ、だれ?

すらりと背が高く、整った顔立ち。金色の髪に、瞳は緑?

もしかして彼がブルーノ?

「はじめまして」でいいよね?

「うん。はじめまして。僕のこと誰だか分かってる?」

ずずいと詰め寄られて、ルークは怯んだ。かなりの身長差だ。年下を見上げるのはちょっとした屈辱ではある。

「ええっとぉ、ブルーノさんですか?」

「ブーッ!」

「ぶー?」まさかカイルの方?どう見ても十六歳には見えないけど……。

「パーシヴァル・クロフト、まぁ、ラドフォード?」

え、え?「えーーーッ!」クロフト卿!なんで?どうして?

ま、まさか!

僕を見張るために?伯爵が?

警戒心から、ルークはあとずさった。かかとが絨毯に引っ掛かり、すっぽりと壁のへこみの部分にはまってしまった。

そりゃあ僕はクロフツさんほど頼りにならないかもしれないけど、これまでいい加減な仕事をしたことはないのに、どうして……。

「名前は知っていたんだ。よかった」クロフト卿が前に出る。はまり込んだルークを囲い込むように壁に両手をついた。

わぁぁっ!近い!近過ぎる!いい匂いがするし、すごく肌が綺麗。

「もちろんです」いろいろな意味で。「どうしてこちらに?」

「うん、まあ。知っているかどうか分からないけど、僕とヒナは友達なんだ。大切な友達がひとりで僕の屋敷にいるかと思うと、居ても立ってもいられなくなってさ。ああ、まだ僕の屋敷じゃないか。まあ、どっちでもいいや」

いま、さらりとすごいこと言わなかった?気難しい伯爵が耳にしたら、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしそうなことを。しかもヒナと友達!?

クロフツさんなら当然知っていたのだろうか?

「では、しばらくこちらに滞在されるのですね」

「まあね。ところで、ルークはヒナを監視しに来たのかい?」

そっちこそ、僕を監視しに来たくせに!

という言葉が、喉元までせり上がって今にも飛び出しそうになったが、なんとか飲み込んだ。貴族相手に食ってかかるほどの度胸はルークにはなかった。

「いいえ、まさか」そう言うのが精一杯だった。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 277 [ヒナ田舎へ行く]

眼鏡というのはなかなかそそる。

もちろん、目の前の男はまったくタイプではない。

パーシヴァルはジェームズが眼鏡を掛けた姿を想像し、うっかり下腹部に血をたぎらせてしまった。

「クロフト卿、壁に向かって何をされているのですか?」

不意の問い掛けに、パーシヴァルはいたずらを咎められた子供のような気分で、顔を横に向けた。

やはりというか、エヴァンが側溝に溜まったゴミでも見るような目でこちらを見ていた。どうやらアルコーヴにはまったルークは、見えていないらしい。

「新入りくんに挨拶をしていただけだよ」パーシヴァルが答えると、ルークがわきの下をすり抜けるようにしてアルコーヴから脱出した。

「バターフィールド氏ですね」エヴァンはなおも蔑みの表情でこちらを見ている。

ルークはエヴァンの恐ろしい風貌にも動じることなく頷き掛けた。

「彼は僕の従者だ。恐がることはない」僕は恐いけど。

「そうですか。はじめまして、バターフィールドと言います。伯爵の使いでしばらくこちらに滞在しますので、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」そう言って、エヴァンはパーシヴァルに目配せをした。従者とは思えない睨みっぷりだ。

「ああ、そうだ!従者はもう一人いるんだ。ダンと言うんだが、ヒナの世話を任せようと思う。ヒナは従者を連れていなかっただろう?」

ルークは疑り深い目でパーシヴァルを見た。取って付けたような言葉に胡散臭さを感じているのだろう。だが、何を言える?この僕に向かって。

パーシヴァルは控えめに微笑んだ。勝者の笑みだ。

「では、あとでヒナの部屋に寄ってみることにします。それでは僕はこれで失礼します」ルークはぺこりと首を垂れると、足早に廊下を去って行った。

パーシヴァルは身体をくねらせ、うたた寝から目覚めたネコのような伸びをすると、エヴァンに向かって片目を瞑ってみせた。

「これでダンの問題は解決したな」

「ですが、バターフィールド氏は納得していないようでしたが」エヴァンは不満げな口振りだ。

「納得していようがいまいがどっちでもいいさ。要は、ヒナがここでいい子にしているっていう報告書をルークが書くかどうか。まあ、そうするように仕向けるけどね」

「ルーク?」エヴァンは片眉をつり上げた。

「バターフィールドなんていちいち呼んでいられないだろう。もうっ。いちいちうるさいんだから」パーシヴァルはエヴァンから逃げるようにして、ルークとは逆の廊下を進んだ。

エヴァンが傍にいるとやりにくいったらない。別にルークって呼んだっていいじゃないか。ヒナなんかやたら呼びにくい名前で呼んでいるっていうのにさ。

あーあ。ジェームズに会いたいな。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 278 [ヒナ田舎へ行く]

「ヒナ、お風呂に行きますよ」タオルと着替えを手にしたダンは、ヒナが脱ぎ捨てた上着を拾い上げ、椅子の背に掛けた。

「はぁい」ヒナはシャツをはらりと肩から落とし、下履き一枚でダンに向き直った。

「まだ、脱がなくていいんですよ」ダンは苦笑を浮かべ、ヒナのシャツを回収し、戸口へと向かった。

コツン。

短いノック音がした。

「誰か来た!」ヒナはほとんど裸だということも忘れ――むしろ気にしないだけか――ドアにかけ寄った。「パーシーかも」

ヒナの予想は外れ、ドアの向こうにはバターフィールドが立っていた。

「いいえ、僕です」ダン同様、ヒナの姿に苦笑を浮かべる。よもや裸で出迎えられるとは思いもしなかったようだ。

「フィフドさん、どうしたの?」ヒナはすっかりダンの存在を忘れ、バターフィールドを部屋に招き入れた。

ダンは着替えを手に固まった。ずっと隠れていられるとは思っていなかったが、見つかるにはあまりに早い。かといって、いまさら逃げるわけにはいかない。何か言い訳を――

「いえね、クロフト卿の従者の方に会いに来たんですよ」そう言って、バターフィールドはちらりとダンのほうを見た。

「パーシーに会ったの?エヴィならいないよ」

「いいえ、エヴァンではなく、ダンという方です」

どうやらクロフト卿がうまく対処してくれていたらしい。それならそうと教えてくれたらいいのに。

「ダンはパーシーのひとじゃなくて、ヒナの――」

ほらヒナが余計なことを!

「わーーッ!」ダンはあたふたと二人の間に割って入った。「僕がダンです。クロフト卿の従者の!」

ヒナはぽかんとしていたが、ダンが目配せと口をぱくぱくさせると、ひらめきを得たときのような訳知り顔に変わった。

やっと、うっかり屋のヒナが状況を察したようだ。「そうです、パーシーのダンです」

「ちょうどあなたの話をしていたんですよ」ダンはヒナが変なことを口走らないうちに割り込んだ。

「え、僕の?いったいどんなふうな?」バターフィールドは自分の噂をされていたのが嬉しいようで、眼鏡の奥の瞳をきらきらと輝かせ、ヒナとダンの顔を交互に見やった。

「フィフドさんはいい人なのか、いい人のふりをし――」

「わッ!と、いい人でよかったですね~と話していたんですよ。僕は今日ここに来たばかりですが、ひとりでずいぶん寂しい思いをしていたようですよ」

もうもうっ!ヒナは全然わかっていないじゃないか!

「そうでしたか。それで、どうして裸で?」ずっと気になっていたらしい。

「お風呂行くところ」

「その格好でですか?」バターフィールドは驚いた。

そりゃそうだ。

「お風呂は裸にならなきゃ」ヒナはお腹をぽりぽりと掻いた。

それはそうだが。

「あ、ほんとですね。では、またあとでお邪魔することにしましょう」

意外にもバターフィールドは納得した。

「また来るの?」ヒナが唇を尖らせて言う。

迷惑そうに言われ、バターフィールドは恐縮した様子で、そっと小声で付け加えるように言った。

「チョコレートのお礼に、一緒にクッキーでもと思ったんです」

「クッキー!いいよいいいよ!一緒に食べよ」ヒナはバターフィールドの手を取って、興奮しきりで左右に振り回した。

ぐらぐらと揺れるバターフィールドは、ダンに助けを求めるように困り顔で微笑んだ。

迂闊に甘い言葉で誘うから、とダンは素知らぬふりを決め込んだ。

ヒナに振り回されればされるほど、バターフィールドはもはや伯爵の使いの者ではなくなるというものだ。

それでもかわいそうなので、バターフィールドが鼻先にずれた眼鏡を落としそうになる寸前、ダンはようやく助け舟を出した。

「ヒナ、お風呂に行きますよ」

その堂々とした態度は、どこからどう見てもパーシーのダンではなく、ヒナのダンにしか見えなかった。

つづく


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ヒナ田舎へ行く 279 [ヒナ田舎へ行く]

夜九時。

ヒナはカイルと合流して入浴中。

その間にダンはお茶の用意をしにキッチンへ。ちょうど引き上げるところだったブルーノと合流し、しばし休憩。

スペンサーは居間で、意外なことにエヴァンと酒をちびちびとやっていた。二人とも不機嫌な仏頂面で、どう見ても気は合いそうにない。

パーシヴァルは長旅で疲れたのか、もしくはジェームズが恋しいのか、早くもベッドの中だ。

ヒューバートは書斎でルークは自室。

屋敷の中はおおむね静かだったが、このまま夜は終わらない。終わるはずがない。

「バターフィールドが部屋に来た?お前に会いに?」ブルーノは激高する寸前だった。ダンの安全が脅かされようとしているのに、平静でいられるはずがない。

「いいえ。いえ、はい。つまり、僕に会いに来たのは間違いないんですけど、どうやらクロフト卿が僕を従者にしてくれてたみたいなんです」ダンはブルーノの気持ちなど意に介さず、少々ご機嫌な様子で言う。

「クロフト卿の従者?」なんとなくその方が都合がいい気がしたが、気に入らない。

「そうなんです。ヒナの世話をするように命じられたクロフト卿の従者。最高ですよね~!」

ダンのにこにこ顔を見ていて、首を締めたくなった。

「ずいぶん親しいんだな、クロフト卿と」ブルーノはぎらついた目でダンを見た。よくよく考えてみれば、二人はロンドンでは同じ屋敷に住んでいるのだ。何かがあってもおかしくはない。

「別に親しくなんかないですよ。僕がクロフト卿と関わることなんてほとんどないんですから」ダンはあっけらかんと言い、ヒナ用にいれたココアを自分のカップに注いた。「ブルーノも飲みますよね?」そう言って、勝手にカップに注ぐ。

むろん、断りはしない。

「それで、バターフィールドは何と?」ブルーノはじれったそうに言うと、ココアを一口飲んだ。甘さが抑えられている。もしかすると、これはヒナの為ではなく、おれだけの為にいれられたのかもしれないと、自惚れた事を思った。

「別にこれと言って、何もなかったんですけど、あとでヒナとクッキーを食べましょうと言っていましたよ。それで、僕はお茶の支度をしようとここへ来たんです」

「何か狙いがあるのかもしれないぞ」ブルーノは脅すような口調で言った。ダンに警戒心を呼び起こさせるためだ。

「どうでしょうか?まあ、それを探るためにも、一緒にクッキーを頂こうと思っているんですけど。ヒナはすっかり彼に気を許しちゃって、心配でたまらないです」ダンは気遣わしげに溜息を吐くと、ココアのお供にと置いていた砂糖がけのアーモンドをつまんで口に入れた。

「ヒナにエサをちらつかせるやり口は、なかなか侮れないな」

「でしょう。誰かに入れ知恵されたのでしょうか?」

「されたとしたら、伯爵以外ありえないだろう?」

「伯爵はヒナの事なんか何ひとつ知りませんよ」

「なぜだ?知り合いの子で、わざわざ預かるほどなのにか?」

「ああ、えっと……直接面識はないようですので、知らなくて当然だと思っただけです」

ブルーノは疑いの目でダンを見た。嘘を吐いているのは明らかだが、具体的に何をどう嘘を吐いているのかまでは分からない。問い詰めたくても、ダンに嫌われると思うと、躊躇してしまう。

ダンがこっちの感情に無関心なのも腹立たしくてしようがなかった。

つづく


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